購入した土地の地中から重油入りのドラム缶が見つかり、工事の遅延や設計変更を余儀なくされる「地中埋設物」のトラブル。
「撤去費だけでなく、工事の遅延損害や追加の設計費まで売主に請求できるのか」という疑問に対し、感情や現場の判断だけで回答を出すのは極めて危険です。
本記事では、実際に寄せられた相談事例をベースに、不動産法務に強い弁護士が、請求可能な損害の範囲と証拠の残し方について詳しく解説します。
相談事例
Q:購入した土地の地中から、重油入りのドラム缶が見つかり、一部が漏れ出していました。撤去・土壌調査費用だけでなく、工事遅延費や追加設計費まで売主に請求できますか?
A:建築用地として購入した土地から重油入りのドラム缶が発見され、土壌汚染のおそれまで生じているのであれば、契約内容にもよりますが、契約不適合に当たる可能性は高いと考えられます。撤去・調査・処理費用に加え、工事遅延などによって追加で生じた損害も請求対象となり得ます。ただし、特に遅延損害や設計関係費用は、今回の不適合によって追加発生した費用かを個別に確認する必要があります。
相談背景
買主が土地を購入し、建築のため地盤改良工事を始めたところ、地中から重油入りのドラム缶が発見されました。一部はすでに土地へ漏れ出しており、土壌汚染の可能性も疑われています。
発見時には一部の改良杭が施工済みで、埋設物の撤去だけでなく、土壌調査や処理、工事工程の組み直しも必要となりました。
買主側は、①ドラム缶の撤去・土壌調査・処理費用、②工事遅延に伴う費用、借入金利、仮住まい延長費用などを売主に求めたいと考えています。さらに、設計費用や建築確認申請費用なども請求できるのかが問題となりました。
弁護士の回答
1、地中の重油入りドラム缶は契約不適合になり得る
まず確認するのは、土地が「契約で予定されていた状態に適合しているか」です。建築用地として売買された土地の地中から重油入りのドラム缶が見つかり、土壌汚染のおそれまである場合、予定された土地の品質を欠くものとして、契約不適合に当たる可能性は高いと考えられます。
もっとも、売買契約書、重要事項説明書、告知書にどのような記載があるか、地中埋設物や土壌汚染について免責・責任制限の特約がないかは必ず確認します。責任期間内であることだけで、個々の費用が当然にすべて請求できるわけではありません。
2、撤去・土壌調査・処理費用は請求対象になりやすい
埋設物を取り除かなければ予定どおり土地を利用できず、漏出した重油について調査や処理が必要であれば、そのための必要かつ相当な費用は、売主に負担を求めることが考えられます。ただし、実務では「撤去費用が高すぎる」「そこまでの処理は必要なかった」といった金額面の争いが生じがちです。
専門業者の調査結果、作業内容、見積書などをそろえ、「なぜこの処置が必要か」「なぜこの金額になるか」を説明できる状態にしておくことが重要です。可能であれば複数社の見積りも、金額の相当性を示す資料になります。
3、工事遅延による損害は範囲が争われやすい
土壌調査や撤去により建築工事が止まった場合、工事延長費用、追加の借入金利、仮住まい延長費用なども、今回の不適合との因果関係が認められれば請求対象となり得ます。
一方、こうした遅延損害は撤去費用以上に争いになりやすい部分です。工事が何日遅れたのか、その遅れが埋設物を原因とするものか、仮住まいの延長期間は相当かなどが問題になります。
そのため、工程表、工事停止・再開の記録、利息計算資料、仮住まい契約書などから、今回の不適合によって実際に追加発生した損害を整理する必要があります。
4、設計費用などは「追加発生分」かで分ける
設計費用、建築確認申請費用、外注設計費用、インテリアコーディネーター費用、移動経費なども、考え方は同じです。
重要なのは、「埋設物がなくても発生していた費用」か、「埋設物の発見によって追加で発生した費用」かという区別です。当初から必要だった設計費や建築確認申請費は、不適合がなくても支出していたため、原則としてその全額を損害として請求することは難しいでしょう。
これに対し、土壌処理のために配置や基礎設計を変更した、図面を修正した、工程変更に伴い設計者や施工会社の手配をやり直したなど、不適合が原因で追加発生した費用は、請求対象として検討できます。
5、「追加費用だった」と説明できる資料を残す
実務上のポイントは、通常費用と追加費用を資料上も分けることです。たとえば「設計費100万円」という請求書だけでは、そのうちいくらが通常費用で、いくらが今回の変更分か分かりません。設計会社や施工会社には、「当初業務」と「埋設物発見後の変更・やり直し業務」を分けた見積書や請求書を作成してもらうとよいでしょう。
工程表も当初予定と変更後を残しておけば、工期遅延との因果関係を説明しやすくなります。仲介会社としても、各費目について「今回の不適合がなければ発生しなかった費用か」という観点で整理しておくことが重要です。
6、今後は地中埋設物の扱いを契約時に確認する
土地売買では、地中の状況を完全に把握できないケースもあります。契約時には、過去の土地利用、既存建物の解体履歴、地中埋設物に関する資料の有無などを可能な範囲で確認しておきましょう。
また、地中埋設物や土壌汚染が判明した場合の責任期間、調査・撤去費用の負担などを契約書で整理しておけば、発見後の紛争を抑えやすくなります。
7、まとめ
土地から重油入りのドラム缶が発見され、土壌汚染のおそれがある場合、契約内容にもよりますが、撤去・調査・処理費用を売主に求めることが考えられます。工事遅延費用や設計変更費用も対象となり得ますが、重要なのは「今回の不適合によって追加で発生した費用か」です。見積書、工程表、請求書などを早い段階から分けて残すことが重要です。
弁護士の実務コメント
この種の案件では、契約不適合に当たるか以上に、「どこまでの費用を売主が負担するのか」で争いになることが少なくありません。特に工期遅延や設計変更は、通常発生する費用との切り分けが曖昧になりがちです。問題発覚後は、原因と必要な処置を専門業者に確認したうえ、追加費用を項目ごとに記録しておくことが、後の交渉を進めるうえで重要です。
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士/山村 暢彦氏
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。
2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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神奈川県弁護士会 所属
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