確定測量によって土地面積が約30㎡も増え、買主に約240万円もの追加負担が生じた「実測売買」のトラブル。「想定以上の増額だから」と、心情だけで減額や契約解除を主張することは極めて困難です。
安易な対応はかえって当事者間の対立を深める恐れがあり、仲介担当者には契約の原則と実務的な交渉のポイントを正しく見極める力が求められます。
本記事では、実際に寄せられた相談事例をベースに、不動産法務に強い弁護士が、追加精算の法的ルールとトラブルを防ぐ契約設計について詳しく解説します。
相談事例
Q:実測売買の契約後、確定測量で土地が約30㎡増え、買主に約240万円の追加負担が生じました。減額や契約解除はできないのでしょうか。
A:契約が実測売買である以上、原則として実測面積に基づく精算を拒むことは難しく、売主が面積増加を事前に認識していたことなどを立証できない限り、解除まで認められる可能性も高くありません。
相談背景
宅建業者が売主、自社が仲介、一般の買主という土地売買で、実測面積によって代金を精算する契約を締結しました。登記簿上の面積は約235㎡で、契約前に提示された現況測量図は約240㎡。仲介担当者から買主には「実測すると5㎡程度増える可能性がある」と説明していました。
ところが、契約後に確定測量を行った結果、面積は約270㎡となり、登記簿より約30㎡増加。
1㎡当たり80,000円で精算すると、買主の追加負担は約240万円になります。さらに確定測量図を見ると、敷地四辺の長さが売主作成の広告図面に記載された寸法とほぼ一致していました。
そこで、「売主は以前から実際にはもっと広い土地だと知っていたのではないか」「説明しなかったことに問題はないのか」「買主を減額や解除によって守れないか」という相談です。
弁護士の回答
1、実測売買では、面積増加による精算が原則です
まず重要なのは、本件が「公簿売買ではなく実測売買」であることです。実測売買は、契約時点の登記簿面積を最終的な面積とせず、確定測量後の実測面積と契約上の単価をもとに売買代金を精算する仕組みです。したがって、面積が減れば売買代金も減少する一方、面積が増えれば代金も増加します。
30㎡、約240万円という差額は買主にとって決して小さくありません。しかし、増減の双方を実測結果に従って処理すること自体が契約内容である以上、「予想より増額が大きかった」という事情だけで精算義務を否定することは難しいでしょう。
2、広告図面だけで「売主は知っていた」と判断するのは難しい
確定測量図と過去の広告図面で敷地四辺の長さが一致している場合、「売主は以前から面積が240㎡より大きいことを知っていたのではないか」と疑問を持つのは自然です。もっとも、これだけで売主が270㎡程度あることを認識していたと立証するのは容易ではありません。
特に本件では、契約前に専門家が作成した現況測量図があり、そこには240㎡と記載されています。売主としても、その資料を前提に土地面積を認識していたという説明は十分考えられます。
広告図面の辺長に多少不自然な点があったとしても、それだけから「実際の面積を知りながら買主に告げなかった」と評価するには、追加の資料や経緯が必要です。
3、仲介会社の責任も直ちに認められるわけではありません
仲介担当者としては、「広告図面の辺長から面積の違いに気付くべきだったのではないか」と不安になるかもしれません。
しかし、仲介会社に求められる調査・説明義務は、どこまで確認可能であったか、専門家作成の測量図が存在していたか、買主にどのような説明をしていたかなどを踏まえて判断されます。本件では、現況測量図が240㎡とされ、買主にも「5㎡程度増える可能性」を説明しています。
仲介担当者が広告図面の各辺長から独自に面積を再計算し、専門家の現況測量図が誤っている可能性まで発見すべきだったと当然に評価されるわけではありません。
4、解除よりも、まずは精算額の調整交渉を
法的に精算を拒絶したり、契約を解除したりする明確な根拠が見つからない場合でも、実務上の交渉余地までなくなるわけではありません。
今回のように「5㎡程度の増加を想定して契約したところ、実際には約30㎡増えた」というケースでは、買主の資金計画や建築計画への影響を説明し、増加部分について単価を一定程度割り引くなどの調整を売主に求めることは考えられます。
もっとも、これは売主の法的義務ではなく、あくまで任意の交渉です。また、融資への影響が生じたとしても、それだけで当然に解除できるわけではありません。融資特約の内容や期限、適用条件を個別に確認する必要があります。
5、今後は「想定以上の面積差」を契約段階で処理する
今回の事例から得られる最大の教訓は、「実測売買では精算方法だけでなく、どこまでの面積差を許容するかも契約段階で決めておく」ことです。面積差による価格変動を避けたいのであれば、公簿面積による売買とし、実測との差が生じても代金を精算しない契約方法が考えられます。
また、実測売買とする場合でも、「実測面積が契約時の想定面積から○㎡以上増減した場合には買主が解除できる」又は「●●万円以上の増額となる場合には、1㎡単価について協議する」といった解除条項や協議条項を設ける方法があります。
単価が高い土地では数㎡の違いが数百万円になることもあります。測量結果が資金計画に与える影響まで見据えて契約条件を設計することが重要です。
6、まとめ
実測売買では、確定測量によって面積が増加すれば、原則として契約で定めた単価による追加精算が必要です。売主が実際の面積を知りながら告げなかったことを示す明確な資料がない限り、想定以上の増額だけを理由として精算拒否や解除に持ち込むのは容易ではありません。
仲介会社としては、まず契約内容と測量資料を確認したうえで、必要に応じて売主との価格調整を試みることになります。今後の取引では、公簿売買の採用や、一定以上の面積差が生じた場合の解除条項をあらかじめ検討しておくことが有効です。
弁護士の実務コメント
実測売買は、面積が増えた場合も減った場合も同じ単価で精算するという意味では、公平な取引方法です。しかし、数百万円単位の追加負担となれば、買主の融資や建築計画に影響することもあります。
今回のようなケースでは、契約後に法的な解除理由を探すよりも、契約前に「最大でどの程度価格が動く可能性があるのか」を確認することが重要です。面積差が一定範囲を超えた場合の解除権や、公簿売買への変更など、測量結果のリスクを契約条項でコントロールする視点を持っておきましょう。
不動産売買においては、「法的紛争」の問題にするのではなく、「契約内容の調整」で処理するのが、非常に重要だと言えるでしょう。
弁護士法人 山村法律事務所 代表弁護士/山村 暢彦氏
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。
2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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神奈川県弁護士会 所属
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